事前確定届出給与ってなに?いつまでに何を届け出るの?非上場中小企業の役員賞与の手段
役員に賞与(ボーナス)を出したいと思う時、使える制度が「事前確定届出給与」です。
役員への報酬には損金算入するための要件が厳しく定められていますが、要は、「自分で自分の会社の費用を増やしたり減らしたりできる」ためです。
役員報酬で利益コントロールしてしまうと、法人税を容易に減らすことができてしまいます。そのため、利益コントールの余地を減らすために、税法上制限を定めています。
役員報酬についてググって調べていると、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3つが出てきて、
①定期同額給与
毎月一定額として、期が始まる前に決める役員報酬
②事前確定届出給与
期の初めに支給日・支給金額を事前に届出をすることで決める役員報酬
③業績連動給与
会社の利益(業績)に応じて支払われる役員報酬
ということはよくわかるのですが、非上場の中小企業にとって、③はそもそも対象外なので、①・②しか思考の余地がなくなります。
そして、①はただ毎月同額の金額を決めるだけなので、②の事前確定届出給与が唯一、思考・工夫の余地が残ります。
つまり、非上場の中小企業は、②事前確定届給与 について詳しく知りたいはずなんです。
でも、いつもそうなんですが、如何せん記事が分かりづらい・・・
そこで、事前確定届出給与について、ざっくり解説していきたいと思います。
目次
事前確定届出給与とは?
金額・支給日を事前に税務署へ届出を行ったうえで、支払われる役員報酬のことです。
つまり逆を言えば、毎月の役員報酬以外に役員報酬を支払ったとしても、事前に届出をしていなければ、損金になりません。
メリットは?
役員への賞与を経費(損金)にできること
これが一番のメリットです。
社会保険料節約スキームが使える(こともある)
賞与に係る健康保険料・厚生年金保険料には上限が設けられています。
定期同額給与に該当する役員報酬月額の金額を極端に少なくし、多額の事前確定届出給与を支給することで、その上限をうまく使って、会社及び役員個人が負担する社会保険料の金額が少なくなることから、このスキームを採用している企業があります。
ただ、以下のデメリットもあります。
【役員退職金の上限額の低下】
役員退職金の上限額の計算に、月額報酬を使用します。月額報酬を減らすこのスキームは、役員退職金の可能性を減らしてしまいます。(退職直前の支給実績だけで判断されるわけではないため、退職直前に月額報酬を切り替えれば良いというものでもありません)
【厚生年金保険料の減少】
厚生年金保険料は将来の年金受給金額に関係します。厚生年金保険料が減少することで、将来受給できる年金が減少するデメリットがあります。(健康保険料は掛け捨てのイメージなので、関係ないと思います)
【税務署や年金事務所からの問題視】
現状、税務署や年金事務所から問題視されることはないようですが、明らかに法律の穴をつくようなスキームなので、今後問題視される可能性はゼロではありません。
支給日と支給金額について
支給日と支給金額にはとてもシビアです。事前に届け出た内容と全く同一の支給日・支給金額である必要があります。
1日でもズレていたり、1円でもズレていたら、全額が損金不算入になります。
なお、金額が「不当に高すぎる部分」は損金不算入となります。
この「不当に高すぎるか否か」の判断は、①実質基準、②形式基準の2つによって行われ、2つとも高すぎるとなった場合にはそのいずれか多い方の金額が損金不算入となります。
①実質基準
役員1人1人について、その職務の内容、その会社の収益や使用人給料の支給状況、同業種、同規模の他社の役員給与からみて高すぎる部分がないか
②形式基準
定款や株主総会で支給限度額を決めている場合、その限度額を超えているかいないか
届出期限は?
区分 | 提出期限 |
---|---|
①新設法人の場合で、設立時に役員の職務を定めた場合 | 設立日以後2か月を経過する日まで |
②株主総会や社員総会等の決議によって所定の時期に所定金額を支給することを定めた場合 | 次の(1)と(2)のうち、いずれか早い日まで (1)「事前確定届出給与を定めた株主総会の日」もしくは「職務の遂行を開始する日」のうちいずれか早い方から1か月を経過する日まで (2)会計期間開始の日から4か月を経過する日まで |
③臨時改定事由により新たに事前確定届出給与の定めをした場合 | 次の(3)と(4)のうち、いずれか遅い日まで (3)上記(1)の届出期限(新設法人の場合は①のとおり) (4)臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日まで |
-
職務の遂行を開始する日 とはいつ?事業年度の初日?
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必ずしも事業年度の初日ではありません。
その役員がいつから就任するかなど個々の事情によりますが、例えば、定時株主総会において役員に選任され就任した日、及び現に役員である者は再任された日、となります。
つまりは、定時株主総会の開催日とイコールになることがほとんどです!
3月決算会社であれば、6月25日の定時株主総会において役員に再任されれば、6月25日が「職務の遂行を開始する日」となります。
(この「職務の遂行を開始する日」を解説している記事がなかなか見つからず困っていたんです...)
事前確定届出の金額はまったく変えられないの?
いえ、変えられます。ただし、条件があります。
金額を変更する際には、所轄の税務署に事前確定届出給与に関する変更届出書の提出が必要です。
区分 | 内容 | 提出期限 |
---|---|---|
臨時改定事由 | 役員の職制上の地位の変更や、職務の内容に重大な変更があった場合 | 臨時改定事由発生日から1か月以内 |
業績悪化改定事由 | 会社の経営状態が著しく悪化した場合 | その事由により、定めの内容変更を行う株主総会などの決議日から1か月以内 |
業績悪化改定事由について
業績悪化改定事由は、「会社の経営上、役員給与を減額せざるを得ない客観的な事情があるかどうかにより判定」することとされており、役員給与を減額しなければ企業経営に重大な影響を与える事情が本当に存在するかが重要とされています。
この点、法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないとされています。
つまり、実務的なハードルは高いと言われています。
業績悪化改定事由により事前確定届出給与の変更が認められた事例としては、新型コロナウイルス感染症による影響の他、会社や役員の不祥事によって、行政処分を受けて減額するときが挙げられます。
全額不支給について
一部減額ではなく、全額不支給とすることは可能です。
厳密には、「届け出た内容と異なるため、全額損金不算入となるが、費用処理額がゼロであるため、結果として損金算入すべき金額がない」という状況になります。
-
複数人届け出ていて、一部の人に全額払わなかった場合
-
事前確定届出給与の判定は「人ごと」に行うため、
届出して支払わない役員がいても、届出どおりに支払った役員分については損金にできます。
ただし、適切なプロセスを経ないと、役員に対する「源泉徴収義務」「債務免除益」が発生し、それに対して課税、ということになってしまいます。
このような事態にならないためにも、下記適切なプロセスを経て、全額不支給とすることが必要です。
最大の注意点は「支給日前に行う」ことです。
- 支給日前に、支給対象となっていた役員が支給を辞退する旨、文書等で提出してもらう
- 支給日前に、株主総会等で事前確定届出給与とした額を無支給とすることを決議する
このプロセスを経ることで、事前確定届出給与の支給義務は支給期日前に消滅することとなり、会社の源泉徴収義務も債務免除益の収益計上も免れることになります。
年に2回以上事前確定届出がある場合と全額不支給の組み合わせ
年に2回以上、事前確定届出があると、全額不支給との組み合わせが複雑になります。
「年度を通した」「人ごと」に判断することになりますので、組み合わせはこのようになります。
下記は12月決算の会社を想定しているので、2月と8月は同一期中の話になります。
おわりに
事前確定届出給与制度に関して、「届出書の提出失念」や「記載額と異なる額の支給」というミスによって実際の支給額が損金不算入となってしまうというケースは、税務において頻出論点です。
また、全額不支給とすることも、実務上は頻出ですが、その時の考え方を整理してくれている記事は少ないです
当記事が参考になれば幸いです。
この記事を書いた人
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公認会計士・税理士・ITストラテジスト
山梨県、仲田公認会計士・税理士事務所の代表です。「企業・経営者の町医者」をテーマに、経営の身近な相談相手でいたいと思っています。
強みは「クラウド会計と経営・ITに精通」「中からも外からも企業のことを熟知」「中小/ベンチャー/起業支援の実績」。
スノーボードとサッカーとブラックコーヒーとONE PIECEが好きです。
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